３日目にして

　試用期間ということで働き始めて今日で３日目です。
　今回の採用では僕１人ではなくもう１人。４０代後半くらいのおばさんも１人採用というか、試用期間ということで働いていました。
　いました。そう過去形です。
　１ヶ月様子を見てから決めるんだと思っていましたが、３日目にして社長は結論を出したようです。今日の午前中に２人揃って定期代の申請をしたばかりだというのに。
　
　この３日間、社長とは殆ど顔を合わせていません。辛うじて今日の午後に営業部の人達と話し込んでいた時に、僕達の姿が目に入っていたくらいだと思います。その時に僕がバリバリ働き、おばさんがあんまり働いていないように見えたのか。それとも誰かの報告でそうなったのか。
　僕とおばさんの能力にそんな大きな差があったとは思えませんが、強いて言えば年齢かも知れません。どっちも大して変わらないなら、先の長い若い方にしておこうかなあとか？
　おばさんは残り１０年ちょっとくらいでしょうが、２０代の僕なら残り３０年以上あるわけですから、同じだけ手間を掛けて教育するなら若いのにしようかと思ったのかも知れません。
　
　おばさんは年の割にはキャピついているというか、頼りないような人に見えました。例えるなら神社にいた時の無能巫女の雰囲気に似ていた気がする。あそこまで酷くないですが。
　２日目の時点で、何故か僕にやり方を聞いてくるのでほんのりウザイというか、迷惑でした。だって僕だって人に教えられる程に出来るようになってないんだってば！！　つーか教育係の人に聞けよ。確かに僕のやっている内容に似ているかも知れないけど、同じとは限らないんだよ？　違っても僕は責任持てないし２度手間だと思うんだけどなあ？

　実は今日の午後、たまたま社長に出くわした時に伝えられていたんですよね………、

「榊原くんを１０月から採用することにしたから、頑張るんだよ」

「はい。有難う御座います。一所懸命に頑張ります」

　こんなごく普通の会話の後。社長は笑顔で続けた。

「でね、おばさんは求めていた人材ではないので、採用はしないから」

「え？」

「いや、別に悪いわけじゃないんだよ？　でも３日もすれば使えるかどうか分かるんだよねぇ」

　突如として告げられた衝撃の事実。どんな顔すればいいのか分かりませんでした。とりあえず何食わぬ顔をして席に戻りました。真横にそのおばさんが座っているのですがね。
　暫く仕事を続けて夕方になった頃、おばさんが社長に呼ばれました。
　やっぱりあの事を告げるのかなあと思っていたら、程なくおばさんが戻ってきました。普通に仕事をいていましたが、就業時間が近くなる頃には区切りが良かったのかお茶を飲んでぼんやりと座っています。
　ノートを纏めるとかいう素振もない。やっぱりショックだったのかなあと思っているうちに時間になりました。いつもは教育係の人が「帰っていいよ」と言うまで帰らなかったのに、時間になるや否や片付け始めて立ち上がりました。

「お世話になりました。今まで有難う御座います」

「へ？　ええっ！？」

　教育係の人は勿論、他の人もびっくり。誰もこの事を知らなかったらしい。僕だって今日で終わりとは考えていなかった。１ヶ月は働くのかなあと思ってました。
　今思えば社長から今日で終わりと言われたか、そうでなければ採用されないなら今日で終わりにしたいと本人が言った可能性もあります。何にしろ新人は僕１人になっちゃったわけです。
　あっさり３日で見限るような厳しい状況ですので、気を抜いたら僕も危ないでしょう。明日からより一層頑張りたいと思います。

　ちなみに社長曰く、あと１、２ヶ月したら更に新しく１人採用するつもりだそうです。またいいのがいれば２人くらい試用期間で試していい方だけ採用するんでしょうかね？
　うっかり僕が切られないように頑張らねば………

　まさに試用期間。お試しなんですね。１ヶ月試してみて下さい！！だったのが３日でいらないと言われるなんて！！

　今回のことを考えると、以前の２社での試用期間って９９％採用するつもりでの試用期間だったんだなあ。どっちかと言うと会社ではなくて社員に切られる可能性の方が高い試用期間だったような。

　………頑張ります。いずれ入ってくる後輩に追い越されないように。

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