癒しスポット

　今日も今日とて仕事が終わり、のこのこと自宅の最寄り駅に降りる。
　駅から家まではすぐ近くなのだが、最近の僕は少し遠回りして帰る。
　住宅街に続く坂道を上りきると、この辺りの氏神である八幡様がある。
　特別広いわけではないが、生えている樹木が大きい所為か緑の気配を強く感じる。夜間でも入り口を閉じることはしないらしく、そこかしこに小さな照明が設置されている。
　本殿も照らし出され、境内の要所要所も明るくなっているが、矢張り濃い闇が周囲を囲んでいる。
　境内の中央には幾つかのベンチが並ぶ。置かれている位置は違えど、どれも本殿に向けて並んでいる。
　そのベンチの一つ、背後に照明と草叢がある所に僕はゆっくりと腰掛けた。
　まずは白い雲が流れる夜空を見上げ、体重を背凭れに預けて大きく息を吐く。
　音もなく雲が流れるのを眺めながら、数秒。若しくは数分そのまま呆けて過ごす。口か眼か、そこからいらないモノが虚空に散じていくような気がする。それは疲労なのか。不愉快な記憶なのか。何か余分な心か。体に蟠る得体の知れない何かを吐き出す。
　人が通るのも稀な夜の境内を占領し、ただ無為に時を過ごす。
　大した時間でなくても、結構回復する。

　無明の闇に囲まれ、木々のざわめきに満たされた、人ならぬものの夜の庭。僕はその空間をとても気に入っている。
　日の光に満ちたそれよりも。