父よ……

　今しがたまで明日は休みだ～、と浮かれながら帰宅して夕食を撮り、パソコンでネットしながら遊んでいました。
　そして「そういえば一昨日珍しくお酒買ってきたんだよなあ」と、思い出しました。好物のファンタグレープ（無果汁）と共に、近所の丸正で買ってきた氷結果汁マスカット味。レジの傍に並べられていたお酒類の中でも妙に美味しそうに見えたので、ついつい買ってしまった一品です。
　この氷結シリーズは缶のデザインの所為か、ものすごく美味しそうに見えます。
　結構楽しみにして買って冷やしておいたのです。それをわくわくしながら冷蔵庫に取りに行き、中を覗き込んで見ると、

「………あれ？　………無い？」

　そんな馬鹿な！　慌てて冷蔵庫はもとより、野菜室から冷凍庫に至るまで探し回るが見当たらない。厭な予感を胸に空き缶用ゴミ箱を覗き込むと、そこには空になって無残に潰された氷結果汁マスカット味の缶が……！！

「誰れじゃ～（どぅわぁ～るぇ～じゅうあ～）！！！」　

　まずは容疑者その１・弟。

僕「あのさあ、冷蔵庫に入ってた氷結果汁知らない？」

弟「は？　何それ。知らないよ」


　残るは父と母。どちらも酒飲みである為、どちらも高いレベルの疑惑が掛かっている。母は昨日から旅に出ているので、まずは父からである。
　果たして焼酎とウイスキーを主食とするあの男が、氷結果汁など飲むのだろうか？

僕「親父さん。冷蔵庫に入ってた氷結果汁飲んだ？」

父「あ、あれお前のだったのか。昨日、飲んじゃったよ。炭酸の抜けた残りなら、そこの湯呑みに残ってるぞ。さっき飲んだら不味かった」


僕「いらないから、そんなの」


　そうだった、この人は家にあるものは何だって飲み食いする習性があるんだった。母にハイエナ呼ばわりされたり、当時小学生だった弟が大事に半分だけ残しておいた、マックのハンバーガをうっかり食べて大泣きされたりしていたじゃないか。
　不惑を通り越し、還暦過ぎて尚、この人は変わらない。

　最早何も言う言葉が見つからず、諦観をもって父の部屋を後にする。
　缶に名前を書かなかった僕が愚かだったのだ。書けば七割くらいの確率で助かったのに。
　家庭内サバンナな榊原家でした。